<目標と目的について>
この二つはとてもよく似た言葉ですが、目標とは「○○に向かって」であって、目的は「○○のために」ですね。
ちょっとこんな話をしたいと思います。
クロスカントリースキーの日本代表選手の新田よしひろさんという人がいるのですが、岡山の代々続く農家に生まれた新田さんは、3歳の時におじいちゃんが運転する農機具のコンバインに左手を巻き込まれてひじから先を失い、それ以来障害者としての運命を背負うことになりました。
でも、翌年の4歳からスキーを初めて、中3のときには県大会で優勝したりする実力をつけたんですが、そのうちに両手でストックを使う健常者の選手に勝てなくなってしまったのです。これが最初の挫折です。それでスキーをやめてしまいました。
でも、2年後に長野でパラリンピックがあるということで関係者が、出ないか、と言ってきました。でも健常者と戦ってきた新田さんには全然興味を持ちませんでした。ところが、関係者に見せられたビデオに新田さんはくぎ付けになりました。新田さんと同じ、左手がないドイツの選手が障害者とは思えない早さで滑っていたのです。
そして練習を再開して世界選手権で優勝。次のトリノパラリンピックでの優勝も確実視されていたのですが、トリノ大会で転倒のアクシテンドを起こして大敗。彼は引退するといって引きこもってしまいました。
でもその時、新田さんは気づきました。目標は金メダルだったのですが、目的を忘れていたのです。何のためのメダルか、ということです。
家にはおじいちゃんがいました。運転するコンバインで片腕を失ったときのおじいちゃんが。事故直後におじいちゃんは「この子と一緒にわしは死ぬ!」といって、それ以来ずっと自分を責め続けていたんです。
新田さんの目的は、金メダルをとっておじいちゃんにこう言ってあげることだったんです。「おじいちゃんは、俺にとって最高のおじいちゃんだよ」。
そして次のパラリンピックのバンクーバー。新田さんは二つの金メダルをとって、92歳のおじいちゃんの首にその金メダルをかけました。
何かに挑戦するとき、「誰かのために」という目的があると人は変わります。すごい力を発揮します。それは愛の力だから・・・。
(みやざき中央新聞より一部抜粋)