勇気を与えた少年
心の窓43号「子供は天使」はとても反響がありました。
もう一ついいお話がありますので、お届したいと思います。
「もう死にたい・・・・。もうやだよ・・・・・。つらいよ・・・・・」
妻は産婦人科の待合室で人目もはばからず泣いていた。
前回の流産の時、私の妹が妻に言った言葉・・・。
「中絶経験があったりすると、流産しやすい体質になっちゃうんだって」。
あまりにも人を思いやらない言葉に私は激怒し、それ以来妹夫婦とは疎遠になっている。
妻は口には出していないが、もうすごく辛い思いをしていたと思う。
だから、今日までなんとか二人で頑張ってきたが、3度目の流産。
前回も前々回の時も、「また、頑張ろう」と励ましてきたが、励ます言葉が妻にプレッシャーをかけるような気がして、何も言えなかった。
いや、そうではない。今考えるとおそらく、3度目の流産を告げられて、子供がいない人生を私は模索し始めていたんだと思う。
私は冷酷な動物だ。情けない。
「ごめんね・・・・。でももう私頑張れないかも。もう駄目だと思う」。
待合室に妻の嗚咽だけが響く。
その時、妻の隣に4〜5才くらいの男の子が座った。
「あのね、これあげるから、もう泣かないで」。
その子が差し出した手に上には二つの指輪。
おそらくお菓子のおまけだと思う。
男の子「水色のは泣かないお守り。こっちの赤いのはお願いできるお守り」。
私「いいの? だってこれ、ボクのお守りなんでしょ?」。
男の子「いいよ、あげるよ。ボクね、これ使ったら泣かなくなったよ。もう強い子だからいらないの」。
私「赤い指輪は? お願いが叶うお守りなんでしょ? これはいいよ」。
男の子「これね。二つないとパワーが出ないんだって。お父さんが言ってた」。
そういうと男の子は「だから泣かないで」といいながら妻の頭を撫でた。
すこし離れたところから「ゆうき〜、帰るよ〜」という彼のお父さんらしき人が彼を呼ぶと、
男の子は妻のひざに2つの指輪を置いて「じゃあね、バイバ〜イ」と言って、去っていった。
いまどき珍しい、五分刈頭で、目がくりっとしたかわいい男の子だった。
私はその子の後姿をずっと目で追っていたが、ふと隣を見ると妻は二つの指輪をしっかりと握り締めていた。
迷信とか宗教とかおまじないとか、そういったものは全く信じない二人だけど、この指輪だけは、私たちの夢を叶えてくれる宝物に見えた。
その日から妻は、さすがに子供用の指輪なのでサイズが合わないため、紐をつけてキーホルダーにしていた。
それから2年半後、我が家に待望の赤ちゃんが誕生した。
名前はあの子にあやかって「有紀(ゆうき)」にした。
生まれる前から、男の子でも女の子でも「ゆうき」にしようと決めていた。
ゆうきくん、あの時は本当にありがとう。
あの時、君に会えていなかったら、君に慰めてもらえなかったら、今、この幸せを感じることはできなかったと思う。
私たち家族は、君に助けてもらいました。
君からもらった二つの指輪は、娘のへその緒と一緒に、大事に保管してあります。
我が家の宝物です。
うちの娘も、君のように人に幸せを分けてあげられるような子に育って欲しい。
本当に、本当にありがとう。
ぴあの屋ドットコム 石山