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11月31日 心の窓 30.誤 審

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 心の窓 30.誤 審  
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誤 審

出場か、辞退か・・・・・。

県大会決勝での誤審をめぐり出場権を手にした選手も、

校長も、悩みぬいた。

年末に開幕した全国サッカー選手権。

岡山県のA高校が1回戦で敗れた。

校長は思った。初戦敗退は残念だったが、正直ホッとした。

県大会優勝後が大変だった。

「フェアーじゃない」「辞退しろ」。

抗議のメールが学校のホームページに何通も届いた。

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岡山県大会決勝戦は延長にもつれ込んだ。

前半3分、B高校のシュートがゴール左ポストを直撃、

ボールはゴール内へ跳ね返り、右奥の支柱に当って転がり出てきた。

Vゴールだ。

B高校イレブンは飛び跳ねて喜んだ。

だが、主審は顔を横に振ると試合を続行。

全校大会への切符は。PK戦でA高校がもぎ取った。

閉会式の間、B高校の監督はビデオを手に大会役員に抗議したが、

聞き入られなかった。


その光景をA高校のストライカーは黙って見ていた。

小学生からサッカー一筋。

このトーナメントでも4試合5得点のうち3点を彼が挙げた。

問題のシュートは良く見えなかった。

しかし、帰宅後見たテレビ録画で、幻でなかったことを知る。

顔色の変わりように母親が驚いた。


翌朝、彼は仲間と一緒に校長から激励された。

「勝因は君たちの執念だ」。

「違う。勝因は誤審だ」と思った。


彼は主力10人を集めて問いかけた。

「B高校の連中の気持ちを考えても自分は出場できない」。

イレブンの意見は割れ、多数決になった。

「出場が6人」。

「辞退」は彼を含めて5人だった。


結論を、彼は監督に伝えた。

「気持ちは十分に分かった。

でも、出る出ないはお前達が決められることじゃない」。

監督はそう答えた。


ストライカーは練習に出なくなった。

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決勝の審判団4人は試合後、主催者の調べにミスを認めた。

試合の4日後、協会は問題のシュートは「入っていた」と結論づけた。

だか、A高校が優勝という試合結果は覆らなかった。


それでもストライカーの悩みは解けなかった。

B高校の選手に電話もした。

「自主退部する」と告げると、一人は

「お前みたいなやつがA高校にもっとおりゃあいいのに」と言った。

別の一人は、「気にせんでもええ」と励ました。

家族の意見も二つに分かれた。


校長は困り果てた。

教職員と話しあい、県高校体育連盟などにも相談した。

そして校長は腹を決めた。

「生徒は悪いことしとらん。ルールに従って選ばれた。

出ないと判断したら組織が崩れる」


期末試験が終わるのをまって、会議室に呼び出した。

「いきさつは聞いた。全国大会に出たくないと」

「試合は負けでした。負けたのに出るのはおかしいと思います」

制服姿のストライカーはきっぱりと言った。

「気持ちは気持ちは分かる。でもな、社会に出たら、

自分の主義主張だけでなく、人間関係も大事だぞ」

「よく考えてみます」

「世の中は助け合い。組織で動くもんだ。

チームは君の力を必要としている。わからんか」

「分かります。でも気持ちは変わりません」


2人だけで35分間。

校長は「出てくれんか」と言いそうになるのを何回も飲み込んだ。

骨のある子だと思った。

別れ際に握手をした。

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大みそか。ストライカーは自分の欠けた試合をテレビで見た。

母親に一度だけ「東京に応援に行かせてあげられんでごめんな」

と謝ったが、出場を辞退したことは今でも正しかったと思う。


校長は試合後、観客席で会う人ごとに「いい試合じゃった」と言った。

元日の新聞に「出場してよかった」という選手達の談話が載った。

校長も自分の決断は正しかったと思っている。

                   <出典:朝日新聞2003年1月5日35面>


みなさんはどう感じられましたか?

だれが正しくてだれが間違っているということは誰もいえません。

みんな悩んで、それぞれが何かを学んだのだと思います・・・。



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