ありがとう
「ありがとう」
私決めていることがあるの。
この目が物をうつさなくなったら目に、
そしてこの足が動かなくなったら、足に
「ありがとう」って言おうと決めているの。
今まで見えにくい目が一所懸命見よう、見ようとしてくれて、
私を喜ばせてくれたんだもん。
いっぱいいろんな素敵な物見せてくれた。
夜の道も暗いのに頑張ってくれた。
足もそう。私のために信じられないほど歩いてくれた。
一緒にいっぱいいろんなところへ行った。
私を一日でも長く、喜ばせようとして目も足もがんばってくれた。
なのに、見えなくなったり、歩けなくなったとき
「なんでよー」なんて言ってはあんまりだと思う。
今まで弱い弱い目、足がどれだけ私を強く強くしてくれたか。
だからちゃんと「ありがとう」って言うの。
大好きな目、足だからこんなに弱いけど大好きだから
「ありがとう。もういいよ。やすもうね」って言ってあげるの。
たぶん誰よりも、う〜んと疲れていると思うので……(略)。
この詩は、雪絵ちゃんという女の子が書いた詩です。
雪絵ちゃんはMS(多発性硬化症)といって、頭の中のいろいろな部分が硬くなり、次第に耳が聞こえなくなったり手足が動かなくなっていく病気でした。
しかし雪絵ちゃんはいつも「MSでよかった」と言っていたそうです。「MSだから気づけた素敵なことがたくさんあるし、車椅子だからこそ知っている素敵なことがたくさんあるよ。だから私はMSのことを丸ごと愛すの」
そんな雪絵ちゃんはたくさんの詩を残しました。
雪絵ちゃんは、「病気や障がいは大事だって、人間はみんな違って、みんな大事だということを世界中の人が知っている世の中にして」という願いを託し、穏やかに旅立ちました。