奇跡のような出会いに感謝して
助産師の内田美智子さんは、連日この年末から年始にかけて新しい命を取り上げた。
その中には15歳の少女もいた。
分娩室で彼女は「痛い、痛い!」と泣き叫びながら、やっとのことで3000グラムを超える大きな赤ちゃんを産んだ。
妊娠にいたった経緯には、言うに言えない事情があった。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんを抱きながら、少女は「ママよ、私がママよ」と何度も語りかけていたそうだ。
しばらくして、ずっと寄り添っていた、30代後半だろうか、40代前半だろうか、若くして祖母になったばかりの母親に向かって言った。「ママ、ありがとう」
わずか50年前、約2000人の母親がお産の時に命を落としていた。内田さんが助産師になった30年前は300人、一昨年でも35人の母親が自らの命と引き換えに子供を産んだ。
死産もある。ある妊婦は10ヶ月目に入って胎動がしなくなったことに気付いた。診察の結果、胎児は亡くなっていた。でも産まなければならない。
普通、お産の時、「頑張って。もうすぐ元気な赤ちゃんに会えるからね」と妊婦を励ますが、死産の時には掛ける言葉がないという。泣かない子の代りに母親の鳴き声が分娩室に響き渡る。
その母親は内田さんに「一晩だけこの子を抱いて寝たい」といった。真夜中、看護師が病病室を見回ると、母親はベッドに座って子供を抱いていた。
「大丈夫ですか?」と声を掛けた看護師に、母親は「今、お乳をあげていたんですよ」といった。みると、母親は乳首から滲みでてくる乳を指に付けて、子供の口元に移していた。
「このおっぱいをどんなにか、この子に飲ませたかったことか。泣かない子でも、その子の母親でありたいと思うのが母親なんです」と内田さん。
父親・母親世代に内田さんは、「子育ては時間が取られるなんて思わないで。育てられるだけでも幸せなことなのよ」と語り、学校に呼ばれた時には、「お母さんは命掛けであなたたちを産んだの。だからいじめないで。死なないで」と子供たちに訴える。
「命が大切なんじゃない。あなたが大切なの」と。
ぴあの屋ドットコム 石山
※みやざき中央新聞2011年1月17日号社説より引用・抜粋しました。イジメに苦しむ子供たちの励みになればと思い、掲載させていただきました。
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